平成30年11月、伝統的工芸品月間国民会議全国大会(※1)が福岡県で開催されます。伝統的工芸品に対する内外からの関心が高まる中、小川知事は、博多織の分野で人間国宝(※2)に認定されている小川規三郎さん、小石原焼の分野でこの度人間国宝に認定された福島善三さんと対談し、伝統的工芸品の魅力や制作へのこだわり、そして後継者の育成など、これからの伝統的工芸品産業について語り合いました。

※1:経済産業省が伝統的工芸品に対する国民の理解とその一層の普及を目指し、昭和59年から、毎年11月を伝統的工芸品月間と定め、全国各地で開催している大会

※2:芸能や工芸などの無形の「わざ」を高度に体得している個人のことを指し、正式には重要無形文化財保持者という

小川 規三郎

小川 規三郎
昭和11年生まれ 福岡市出身

 父・小川善三郎(おがわ ぜんざぶろう)のもと、伝統的な献上博多織の制作技法を習得。平成15年に人間国宝に認定。

福島 善三

福島 善三(雅号であり、本名は
福嶋善三(ふくしま よしぞう))

昭和34年生まれ 東峰村出身

 父・福嶋司(ふくしま つかさ)のもと、小石原焼の制作技法を習得。平成29年に人間国宝に認定。

伝統的工芸品の魅力

知事:長い歴史の中で育まれ、受け継がれてきた伝統的工芸品は、私たちの生活に豊かさと潤いを与えてくれるだけでなく、日本の優れたものづくりを象徴する産業です。近年、外国人観光客が増加し、地域の魅力としても大きな役割を担っています。福岡県には、小石原焼、博多人形、博多織、久留米絣、八女福島仏壇、上野焼、八女提灯の7つの国指定の伝統的工芸品がありますが、両先生が考える伝統的工芸品の魅力について教えてください。
小川規三郎さん(以下、小川):伝統的工芸品は、日用品の製造技術に由来し、古くから間違うことなく受け継がれてきたものに、時代ごとの流行を乗せ、それが続いていくから「伝統」、そして「魅力」なのだと思います。途切れてしまえば歴史です。ですから、博多織も、10年前と今とでは、デザインや色、柄が全く違ってきています。
福島善三さん(以下、福島):小石原焼も、350年の歴史の中で、昭和に入って伝わった比較的新しい技法である「飛び鉋(かんな)」が小石原焼の特徴といわれているように、時代と共に流行に合わせて変わってきたという点が共通しています。
知事:伝統の上の「新しさ」。それが伝統的工芸品の魅力なんですね。時代と上手く融和し、より良いものを作り、それが新しい伝統となっていく。毎年、小川先生が学長をされている「博多織デベロップメントカレッジ」で生徒さんの作品を拝見していますが、先生がおっしゃったように、博多織の伝統的な技術や技法の上に、若者らしい新しいデザインや色、柄が毎回加わり、どんどん魅力的になっていますね。

これまで苦労した点、制作へのこだわり

知事:両先生が長年制作に取り組まれてきた中で、苦労された点、制作へのこだわりについてお聞かせください。
小川:私の師匠は父親ですが、ものすごく厳しい人で、何度もやめようと思いました。「そんなことにいつまでかかっているんだ」とでも言いたげに、私の方を見るだけで何も教えてくれなかった。今になって思うのは、教えてもらうのは簡単ですが、自分の身に付かないということです。試行錯誤して、自分で気付いて初めて身に付くのだと思います。
福島:小川先生が言われた試行錯誤と共通すると思いますが、私はいかに無駄をしたかがすごく大事だと思います。特に、焼物の場合、焼く前と後では全く形態が変わってしまいます。自分の力ではどうしようもないことなので、なぜそうなったのか、どこに原因があるのかを一つずつ考えます。
知事:窯から出てきたものが思い通りのものでなかったとき、なぜか、どうすれば良いかを考え、それを繰り返すことでより良いものが生まれるわけですね。
福島:他人がしないことをすると、先例が無いので、試行錯誤する分だけ無駄が多くなります。ただ、無駄や失敗は当たり前と思い、失敗を反面教師としてやれば失敗ではなくなるし、成功への道しるべだと思ってこれまでやってきました。
知事:そういう意味では、私たち行政の仕事も同じかもしれません。前例もさることながら、自分なりに悩み考え抜いて練り上げた政策は、人から批判されてもそう簡単には倒れません。
福島:そうですね。「これは小石原焼じゃない」と、若いうちは認めてもらえないこともありましたが、自分の中で「そのうち認めてもらえる」という信念を持ってやってきました。

後継者の育成

知事:伝統的工芸品産業の発展を考えると、後継者の確保は大きな課題です。これについてどうお考えですか。
小川:全部教えるのではなくヒントを与えることが大切だと考えています。デベロップメントカレッジでは、在校生は修行中ということもあって、卒業生を研修旅行として沖縄に連れていき、現地の染物や織物を見てもらいます。沖縄の染物や織物というのは、少ない道具しか使っていないにもかかわらず立派ですから、参加した卒業生たちは「自分たちは恵まれすぎている」と他の産地との環境の違いに気付き、「新たな気持ちで制作に取り組もう」となるわけです。先ほども話しましたが、自分で気付くということが大切だと思います。
福島:一番大事なのは、陶芸だけで食べていくことができる環境を作ることだと思います。都市圏から離れた小石原は、陶芸と他の仕事との兼業が難しい地域ですので、陶芸だけで食べていけるということが、後継者の確保につながると思います。技術的なことを教えるのももちろんですが、そうした環境を作るために市場を開拓していくこと、例えば東京で小石原と言ったときに「福岡県ですね」と分かっていただけるように認知度を上げることも私たちの仕事だと思っています。
知事:技術を伝え教えるだけでなく、自分で気付かせること、そして、若者がやってみたいと思えるような魅力ある産業、地域にするということが先輩たちの役割でもあると。それは、地方創生を進める上で、農業をはじめ他の産業についても当てはまることだと思います。

新年の抱負、今後の意気込み

知事:最後に、両先生の新年の抱負をお願いします。
小川:これまでしてきたことを急に変えるのは難しいですが、徐々に変えていくことは必要だと思っています。例えば、同じ材料や道具を使って作る場合でも、やり方を変えればさらに良いものを作れる可能性があります。新年もより良いものが作れるよう、また、博多織が時代と共存できるよう、いろいろな試行錯誤を繰り返しながら頑張っていこうと思っています。
福島:平成29年7月九州北部豪雨の際には、多くの方に助けていただきました。また、人間国宝の認定書交付式の後、天皇皇后両陛下にお会いさせていただきました。その際、小石原焼の窯元約50軒のうち半数近くが被災しましたが、1軒もやめることなく続けていますというお話をさせていただいたところ、皇后陛下から、「良かったですね」と声を掛けていただきました。このことも含め、いろいろなところで励ましの声を掛けていただきました。新年は、より良いものを作っていくことはもちろん、こうした皆さんに少しでも恩返しをする年にしたいと思っています。
知事:平成30年11月、伝統的工芸品月間国民会議全国大会が30年ぶりに福岡県で開催されます。ラグビーワールドカップや東京オリンピック・パラリンピックなどを控え、国内外からの関心もさらに高まる時期なので、大会では、福岡県をはじめ全国の伝統的工芸品の魅力をしっかりPRすることはもちろん、小石原焼の産地である東峰村をはじめ、被災地の復興ぶりも発信したいと思っています。大会の成功に向けて、両先生をはじめ関係の皆さんにいろいろとご協力をいただきながらしっかり準備してまいります。よろしくお願いします。両先生、県民の皆さまにとり、新しい年が素晴らしい年となることをお祈り申し上げます。今日は本当にありがとうございました。

集合写真